レコーディングについて
レコーディングとは、CDやプロモーションビデオなどに向けた音源(ソース)を録音することです。録音するだけのことですが、いやしくも人様に聴かせようという音楽を録音するためには、かなりの手間暇、そしてお金がかかります。素人がデモテープ(今どきはCDやDVDですが)を録音するのとは全然話がちがってきます。
ここでは、現在一般的となっているレコーディング作業の流れをご紹介します。
1.全体像をざっくり、料理にたとえて
レコーディング作業の全体的な概要を、「カレーをつくる」作業にたとえてみましょう。スパイスからつくる感じのカレーです。
ターメリック、クミン、コリアンダー、チリペッパー、オールスパイス、カルダモンといったスパイス、にんじん、たまねぎ、じゃがいもなどの野菜、そしてお肉を買ってきます。
このとき、人様に食べさせようというカレーですから、いたんでいたり鮮度が落ちていたりする素材は買いませんね。できるだけ質のよいものを買います。
レコーディングでは、これが「マイクによる収録」です。音楽家に数テイク、時には十数テイクも演じてもらって、いちばん良いものを使います。
野菜やお肉を切ります。すぐにでも調理できる状態にします。
レコーディングでいうと、各楽器のパート、ヴォーカル、効果音といったそれぞれの音源トラックができている状態です。
食材をなべに入れ、火にかけます。さらに、味付けをします。最終的にお皿に盛り付けられる状態にします。
レコーディングでは、各パートの音源トラックを、ステレオなら左右の2チャンネル、ドルビーサラウンドなら5+1の6チャンネルという「お皿」に盛り付けられるようにまとめていく作業になります。
この時、各食材やスパイスのバランスがカレーの味を左右するように、各音源トラックのミックスの仕方によって、できあがりのパフォーマンスのレベルが大きく左右されます。
では実際のレコーディング作業の流れを見ていきます。
2.マイクによる収録
「材料を買ってくるだけ」のカレーとはちがって、レコーディングは素材の確保からしてかなりたいへんです。言ってみれば、野菜やスパイスは種から栽培するみたいなもので、牛・豚・鶏も牧場で育てる感じです。
つまり、スタジオの場合とホールの場合がありますが、いずれにせよきちんと音響設計された空間で、音楽家たちがたがいの音で邪魔しあわないように配慮したうえで、高品位のマイクを使用して音や声を収録します。
そして上記のように、各音楽家には数テイクから十数テイクも繰り返して演じてもらいます。うまくいかなかったときのやり直しはもちろんのこと、きちんとできている場合でも少しずつフィーリングを変えていくつかのバージョンを録ります。
ヴォーカルも加わる楽曲の場合は、まず楽器の各パートのトラックを先に収録し、それをざっくりまとめた「カラオケ」的な音源を作成し、この音源を流し、これに合わせる形でヴォーカルに歌ってもらって収録するという順序になるのが一般的です。
3.ミックス・トラックダウン
各楽器のパート、ヴォーカル、その他の収録トラックがそろったら、「調理」です。この作業はエンジニアが中心になります。
各トラックの音を、ステレオなら左右の2チャンネル、ドルビーサラウンドならフロントスピーカー×2、センタースピーカー×1、リアスピーカー×2、サブウーファー×1の合計6チャンネルにまとめていきます。
このとき、各トラックの音量、音像定位、必要に応じた加工が行われます。カレーでいうと、鶏肉・野菜・豆が主役なら、クミンとコリアンダーを多めにしてマイルドな香りに仕上げたり、豚肉や牛肉などクセのある肉が主役ならオールスパイスを多めにしたり、辛くしたかったらチリペッパーを多くするなど、バランスを工夫するとおいしいカレーができます。
これと同じことで、エンジニアは楽曲の魅力が最大限に発揮されるように、各トラックの音をバランスを考えながらミックスし、2ないし6つのチャンネルにまとめていきます。これが「トラックダウン」です。
このミックス=トラックダウンには、2通りの方法があります。「鍋」が2種類あるということです。その鍋とは、アナログ鍋とデジタル鍋です。
3.⑴アナログ(コンソールミックス)
アナログ鍋は、SSL(Solid State Logic社“エスエスエル”)やNEVE(ニーヴ)といったコンソールとアナログ機器のアウトボード(Comp、EQ、Delay、Rev)を用いる方法です。デジタルサンプリングしないでアナログ機器を通しますので、音の温かみややわらかさを大事にしたミックスができるというメリットがあります。ただ、デメリットもあり、アナログデータなので、修正は1曲全部をダビングしなおすことになってしまい、手間と時間がかかってしまいます。そのため、現在の主流は「デジタル鍋」の方となっています。
3.⑵デジタル(プロツールスミックス)
AVID Technology社のPROTOOLSという、パーソナルコンピューター上で動作するアプリケーションソフトを用いた方法です。現在、こちらが主流になっています。
PROTOOLSは、デジタル化された音声データに対する編集、ミキシング、アレンジといった一連の作業をパーソナルコンピューター1台で行うことを可能にするプラットフォームです。収録された各パートのトラックはデジタルデータ化され、PCのパーソナルコンピューターのハードディスク上に置かれます。PROTOOLSはこのデータを対象に、音声波形の編集、アレンジ、ミキシングを行います。
アナログの場合ですと、テープに録音された音声は、あとから上書き録音すると消えてしまいます。これに対しPROTOOLSでは、あとから上書き録音しても前のデータは消えません。「消えない」というよりも、データとして保存されているので、すぐに簡単に戻せるわけです。
するとたとえば、あるパートのいくつかのテイクを試したいとき、前のテイクを残しながら次々にどんどんいろいろなテイクを試すことができます。
また、アナログのテープベースのレコーディングでは、録音された音声は演奏時間の分だけ時間をかけて耳で聴くしか確認のしようがなかったのですが、PROTOOLSではパーソナルコンピューターの画面上に音声データが波形で表示されるため、音声データを視覚的に確認することができ、しかもマウスなどのポインティングデバイスを使って直感的に編集することもできるようになります。
昔は、プロ用レコーディング設備を整えるには億単位の高額なお金がかかりました。しかし、PROTOOLSを取り入れることにより、レコーダー、ミキシング・コンソール、各種エフェクターまで含めて、スタジオ設備一式が数百万円程度でそろってしまいます。必要な機材の数も大幅に減りますので、メンテナンスにかかる手間暇、経費も圧倒的に小さくなります。
こうした編集・ミキシングの簡便性や効率性、そして経済性により、PROTOOLSによるレコーディングは主流になりました。
このようなコンピューターを使ったオーディオ編集作業を行う環境をDAW(Digital Audio Workstation)と言い、実はPROTOOLSのほかにもDAW作業を可能にするソフトウェアは何種類かあります。しかし、それらのなかでもPROTOOLSは「プロレベルの業界標準」と言えるもので、プロ用レコーディングスタジオで導入していないところはないと言っていいほど普及しています。
「これさえ使えれば大丈夫」という安心感をあたえる定番ソフトという点も、メリットと言えるでしょう。
他方、欠点はというと、PROTOOLSで編集・ミキシングされた音声データは「音にあたたかみがない」という人がいます。
それから各種プラグインについてです。プラグインにはVST、AudioUnits(AU)、AAXなどいくつかの規格があります。PROTOOLSで使えるのはAVID社の規格であるAAXに準拠したものだけです。VSTやAUのプラグインはすべて使えません。このへんも欠点と言えるでしょう。
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